敷地内の設計標準

2.1.1 敷地内の通路の設計標準

(1)通路の有効幅員、空間の確保等

① 通路

  • 主要な経路上の通路の幅は、120cm 以上とする。

  • 通路の幅は、段がある部分及び傾斜路を除き、180cm 以上とすることが望ましい。(※1)

※1 以下の場合を除く。

  • 車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場、段等のみに通ずる敷地内の通路の部分

  • 主要な経路上の通路には、50m 以内ごとに車椅子の転回に支障がない場所を設ける。

敷地内の通路の有効幅員

  • 主要な経路上の通路には、階段又は段を設けない。(傾斜路又はエレベーターその他の昇降機を併設する場合を除く。)

  • 主要な経路以外の通路に段を設ける場合にも、段に代わり、又はこれに併設する傾斜路又はエレベーターその他の昇降機を設けることが望ましい。

  • その他の昇降機(段差解消機)については、2.14 B 段差解消機を参照。

段差解消の例

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留意点:敷地内の通路における段差解消

  • 道等から建築物の出入口までの経路上に、砂利敷、飛石、小段等があると車椅子使用者やベビーカー等の移動等が難しい。このような場合、施設管理者又はテナント等は、道等から建築物の出入口まで円滑に利用することができる経路を1以上、確保できるよう、別の措置を講じる必要がある。
  • 水勾配が必要な場合を除き、主要な経路上の通路は水平とする。

  • モニュメント、車止め、植樹ます等を設ける場合は、車椅子使用者、視覚障害者の通行に支障がない位置に設ける。

  • 敷地内の通路上に不用意な物品や案内板等が置かれていると、設計で配慮した高齢者、障害者等の利用しやすさが機能しなくなるため、施設運用上のあり方を十分検討し、物品や案内板等による通行の支障が生じないようにすることが望ましい。

  • 敷地内の通路と道路の境界部分や出入口前の段差を解消するため、L形側溝や縁石の立ち上がり部分の切下げ等について道路管理者等と協議を行い、車椅子使用者等の移動が円滑になるよう配慮することが望ましい。

設計例

敷地内の通路と道路の境界部分の縁石の切下げ

② 段

  • 段には、段鼻の突き出しその他のつまずきの原因となるものを設けない。

  • 段の幅は、140cm 以上とすることが望ましい。(手すりが設けられた場合は、手すりの幅が 10cm を限度として、ないものとみなして算定する。)

  • けあげの寸法は、16cm 以下とすることが望ましい。

  • 踏面の寸法は、30cm 以上とすることが望ましい。

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留意点:視覚障害者の安全な通行のために

  • 視覚障害者が敷地内の車路へ進入してしまうのを防ぐため、道等から建物の出入口まで視覚障害者誘導用ブロックを連続的に敷設する。

  • 車止め(ボラード)*は、視覚障害者が衝突することや、車椅子使用者等の通過の障害となることがあるので、原則として設置しないことが望ましい。やむを得ず設置する場合は、車椅子使用者の通路幅員を確保し、白杖で認知しやすい大きさや、(ロービジョン)が認知しやすいものとし、夜間の衝突を防止するために照明等の配慮をする。

  • やむを得ず、歩行者と車の動線が交差する場合においては、歩行者用通路には「エスコートゾーン(視覚障害者誘導用標示)」を設け、見通しを良くする等、危険を回避することが望ましい。

  • 車止め(ボラード)とは、歩行者の保護や車両の進入禁止等を目的として設置する高さ50~90 ㎝ 程度の柱のことをいう。

③ 傾斜路

  • 主要な経路上の傾斜路の幅は、段に代わるものは 120cm 以上、段に併設するものは 90cm 以上とする。

  • 傾斜路の幅は、段に代わるものは 150cm 以上、段に併設するものは 120cm 以上とすることが望ましい。(※2)

※2 以下の場合を除く。

  • 車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場、段等のみに通ずる敷地内の通路の部分
  • 主要な経路上の傾斜路の勾配は、1/12 を超えないものとし、高さが 16cm 以下のものでは、1/8 を超えないものとする。

  • 傾斜路の勾配は、1/15 を超えないものとすることが望ましい。(※3)

※3 以下の場合を除く。

  • 車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場、段等のみに通ずる敷地内の通路の部分(ただし勾配が 1/12 を超える傾斜がある部分には、両側に手すりを設ける。)
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留意点:勾配

  • 車椅子使用者が自力で登坂できる勾配は、1/12 以下である。

  • 1/12 の勾配は国際シンボルマークの設置基準である。

  • IPC(国際パラリンピック委員会)のアクセシビリティガイドにおける屋外傾斜路の勾配のベストプラクティス(最良慣行、最善事例)は、1/20 以下である。

  • 主要な経路上の傾斜路で、高さが 75cm を超えるもの(勾配が 1/20 を超えるもの)では、高さ 75cm 以内ごとに踏幅が 150cm 以上の踊場を設ける。

  • 主要な経路以外の傾斜路でも、高さが 75cm を超えるもの(勾配が 1/20 を超えるもの)では、高さ 75cm 以内ごとに踏幅が 150cm 以上の踊場を設けることが望ましい。(※4)

※4 以下の場合を除く。

  • 車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場、段等のみに通ずる敷地内の通路の部分
  • 通行の安全確保、休憩、方向転換等のため、傾斜路の上端・下端に近接する部分、曲がりの部分、折り返し部分、他の通路との交差部分にも、踏幅 150㎝ 以上の水平なスペースを設ける。

  • 杖等による危険の認知、車椅子のキャスター等の脱輪防止等のため、側壁がない傾斜路側端には、5㎝ 以上の立ち上がりを設けることが望ましい。

  • 側面に壁面がない場合は、車椅子の乗り越え防止のため立ち上がり部に高さ 35cm 以上の幅木状の車椅子当たりを連続して設けることが望ましい。

  • 長くゆるやかに続く傾斜路の場合は、傾斜路の距離、勾配を、傾斜路の上端・下端に表示することが望ましい。

  • 義足使用者や片まひ者は階段の方が昇降しやすい場合もあるため、傾斜路と緩勾配の段(手すり付)を併設することが望ましい。

段に併設する傾斜路の例

(2) 戸の形式

  • 主要な経路上の通路に戸を設ける場合には、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないものとする。

  • 主要な経路以外の通路に戸を設ける場合にも、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないものとすることが望ましい。(※5)

※5 以下の場合を除く。

  • 車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場、段等のみに通ずる敷地内の通路の部分

(3)部品・設備等

① 段がある部分の手すり

  • 段がある部分には手すりを設ける。

  • 段がある部分の両側に、手すりを設けることが望ましい。

  • 途中で途切れないよう、段から連続して踊場にも手すりを設けることが望ましい。

  • 手すりは、段の上端では水平に 45㎝ 以上、下端では斜めの部分を含めて段鼻から 45㎝ 以上、延長することが望ましい。

② 傾斜路の手すり

  • 勾配が 1/12 を超え、又は高さが 16cm を超え、かつ、勾配が 1/20 を超える傾斜がある部分には、手すりを設ける。

  • 高さが 16cm を超え、かつ、勾配が 1/20 を超える傾斜がある部分には、両側に手すりを設けることが望ましい。

  • 途中で途切れないよう、傾斜路から連続して踊場にも手すりを設けることが望ましい。

  • 傾斜路の上端・下端では、手すりを水平に 45㎝ 以上、延長することが望ましい。

  • 手すりは、耐久性のある材料とする。

  • 手すりについては、2.14 A 手すりを参照。

③ 視覚障害者誘導用ブロック等

  • 道等から点字・音声等による案内設備又は案内所に至る 1 以上の経路には、視覚障害者の誘導を行うために、線状ブロック等及び点状ブロック等を適切に組み合わせて敷設し、又は音声その他の方法により視覚障害者を誘導する設備を設ける。(※6)

※6 以下の場合を除く。

  • 道等から案内設備までの経路が主として自動車の駐車の用に供する施設に設けるものである場合

  • 建築物の内にある管理者等が常時勤務する案内所から直接地上へ通ずる出入口を容易に視認でき、かつ、道等から当該出入口までの経路に、視覚障害者誘導用ブロックの敷設又は音声その他の方法により視覚障害者を誘導する設備を設ける場合

※7 以下の場合を除く。

  • 勾配が 1/20 を超えない傾斜がある部分の上端に近接するもの

  • 高さが 16cm を超えず、かつ、勾配が 1/12 を超えない傾斜がある部分の上端に近接するもの

  • 段がある部分若しくは傾斜がある部分と連続して手すりを設ける踊場等

  • 道路管理者等と協議の上、道路の歩道から敷地内の通路に、連続的に視覚障害者誘導用ブロック等を敷設することが望ましい。
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道路と敷地の境界をいかに整備するか -視覚障害者誘導用ブロックの敷設-

交通バリアフリー法基本構想に基づく特定経路における連続誘導(視覚障害者誘導用ブロックの敷設)の事例(江東区)

江東区においては、2005(平成 17)年度より交通バリアフリー法に基づく基本構想の策定に着手し、2006(平成 18)年度には基本構想に基づく特定事業計画の検討を進めた。 基本構想において特定経路として設定されていた永代通りについては、特定経路の整備方針として、視覚障害者誘導用ブロックを連続的に敷設した連続誘導を行うこととされていた。 東陽町駅改良工事に伴う道路復旧工事中という機会を捉え、視覚障害者等を含めた現地点検等のワークショップを開催し、放置自転車等の障害物を避けた最も歩きやすい連続敷設の位置(歩道中央ではなく建物側から 1.5m 離れた位置とした)、交差点部分の敷設方法、バス停、駅出入口、建物への連続的な案内方法等を検討し、ワークショップの成果として連続敷設の案を作成して、工事へと反映させた。 駅周辺では、駅出入口、バス停、タクシー乗降場等、様々な場所への誘導をしなくてはならず、交差点も多いことから視覚障害者誘導用ブロックの敷設は複雑になりやすい。そのなかで施設内に音声誘導システムが設置されていた郵便局には、連続誘導をすべきと整理された。 敷設途中に現場確認を行ったところ、郵便局との敷地境界に歩道側での警告ブロック(点状ブロック)が敷設され、警告ブロックが二重敷設となっており、協議の上、その警告ブロックは撤去することとした。(図参照) 建築敷地と歩道とのどちらに先に視覚障害者誘導用ブロックが敷設されているかは、その現場の状況によるが、関係者間の連携によって、安全を確保した効率的でわかりやすい敷設が求められる。

連続誘導の提案図(一部抜粋)

整備前:ワークショップの様子

整備後:郵便局への連続誘導

敷地内の通路 ※図は敷地内の通路に段を設けざるを得ない場合の例

設計例

敷地内の通路の上屋、視覚障害者誘導用ブロックの連続敷設(床仕上げの材料の変化と明度差に配慮した通路により、わかりやすいデザインとしている。)

建築物の出入口手前の、インターホンが設けられた案内板(視覚障害者誘導用ブロックの敷設はここまで。)

片側手すり付きの傾斜路が設けられた敷地内の通路

④ 照明

  • 夜間等の通行に支障のない明るさを確保できるよう、照明設備を設ける。
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留意点:照明

  • 夜間の弱視者(ロービジョン)の歩行に配慮し、適切な照明計画とし、わかりやすい動線計画等で敷地内の通路を整備する。

  • 夜間でも建物名称表示等がわかりやすいよう、照明等に配慮する。

⑤ 屋根、庇

  • 通路や傾斜路の凍結や積雪を防止するため、積雪寒冷地では、融雪装置や上屋を設けることが望ましい。

(4)仕上げ等

① 路面の仕上げ

  • 通路の表面は粗面とし、又は滑りにくい材料で仕上げる。

  • 通路の表面は、濡れても滑りにくい材料で仕上げる。

  • 傾斜路の表面は、ノンスリップ加工を施す等、濡れても滑りにくい材料で仕上げる。

② 溝蓋

  • 通路や傾斜路と、それらを横断する排水溝等の蓋には、高低差を設けない。

  • 主要な経路上にある排水溝等の蓋のスリット等は、杖先や車椅子のキャスター等が落ち込まないよう目が細かい構造(ピッチ:1.5cm 下、隙間:1cm 以下)とし、濡れても滑りにくい仕上げとする。

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留意点:仕上げと施工

  • 主たる通路では、車椅子使用者の移動が困難となる砂利敷きや石畳の採用を避ける。やむを得ずそのような通路を設ける場合は迂回路を設ける。また、レンガあるいはタイル敷き等の通路は路盤の沈下による不陸や目地の凹凸を生じないよう施工や維持管理を行う。

  • 仕上げの材料の目地幅は、できる限り小さくし、車椅子使用者や視覚障害者の通行のしやすさに配慮する。

排水溝等に車椅子の前輪が落下しない配慮

③ 段、傾斜路の識別性

  • 段がある部分は、踏面の端部とその周囲の部分との色の明度、色相又は彩度の差が大きいことにより段を容易に識別できるものとする。

  • 段を容易に識別できるものとするため、踏面の端部とその周囲の部分との輝度比を確保することが望ましい。

  • 傾斜路は、その前後の通路との色の明度、色相又は彩度の差が大きいことによりその存在を容易に識別できるものとする。

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留意点:輝度と輝度比

  • 輝度(cd/㎡)とは、ものの明るさを表現したものであり、単位面積当たり、単位立体角当たりの放射エネルギー(発散する光の量)を比視感度(電磁波の波長毎に異なる感度)で計測したものである。輝度は輝度計により、測定することができる。

  • 輝度比=当該部分の輝度(cd/㎡)/周辺部分の輝度(輝度が大きい方で除算するので、当該部分と周辺部分を逆として算出する場合もある。)

(5)案内表示

① 案内板

  • 建築物又はその敷地には、建築物又はその敷地内のエレベーターその他の昇降機、便所又は駐車施設の配置を表示した案内板その他の設備を設ける。(当該エレベーターその他の昇降機、便所又は駐車施設の配置を容易に視認できる場合、案内所を設ける場合を除く。)

  • 案内板等については、2.14 G 案内表示を参照。

② 点字・音声等による案内板

  • 建築物又はその敷地には、建築物又はその敷地内のエレベーターその他の昇降機又は便所の配置を点字、文字の浮き彫り、音による案内、その他これらに類する方法により視覚障害者に示すための設備を設ける。(案内所を設ける場合を除く。)

  • 点字・音声等による案内板については、2.14 G 案内表示(1)③ を参照。