2.6.1 エレベーターの設計標準
(1)設置数、配置
- 主要な経路上のエレベーターの籠(人を乗せ昇降する部分をいう。)は、利用居室、車椅子使用者用便房又は車椅子使用者用駐車施設がある階及び地上階に停止するものとする。(地上階又はその直上階若しくは直下階のみに利用居室を設ける場合にあっては、当該地上階とその直上階又は直下階との間の上下の移動に係る部分を除く。)
・多数の利用者が利用する居室、車椅子使用者用便房、車椅子使用者用駐車施設、車椅子使用者用客室又は車椅子使用者用浴室等がある階、及び直接地上へ通ずる出入口のある階に停止する籠を備えたエレベーターを、1以上設けることが望ましい。
- 多数の利用者が利用する階段を設ける場合には、階段に代わり、又はこれに併設する傾斜路又はエレベーターその他の昇降機(2以上の階にわたるときには、エレベーターに限る。)を設けることが望ましい。(※1)
※1 以下の場合を除く。
-
階段が、車椅子使用者用駐車施設が設けられていない駐車場等のみに通ずるものである場合
-
大規模な集会施設や劇場・競技場等、一度に多くの車椅子使用者等が集中することが想定される施設では、稼働力が低下する時間帯があるため、エレベーターの設置数、配置、籠の大きさ、出入口の幅員、乗降のしやすさ等に配慮する。
-
地上階の直上階若しくは直下階のみに利用居室を設ける場合にも、利用居室、車椅子使用者用便房又は車椅子使用者用駐車施設がある階及び地上階に停止するエレベーターを、1以上設けることが望ましい。
設計例
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(2)出入口の有効幅員、空間の確保等
① 出入口の有効幅員
- 主要な経路上のエレベーターの籠及び昇降路の出入口の幅は、80cm以上とする。
・主要な経路上以外のエレベーターでも、籠及び昇降路の出入口の幅は、80cm以上とすることが望ましい。
・不特定多数の者が利用する建築物の1以上のエレベーターの籠及び昇降路の出入口の幅は、90cm以上とすることが望ましい。
② 乗降ロビーの広さ
- 主要な経路上のエレベーターの乗降ロビーは、高低差がないものとし、その幅及び奥行きは、150cm以上とする。
・主要な経路上以外のエレベーターでも、乗降ロビーは、高低差がないものとし、その幅及び奥行きは、150cm以上とすることが望ましい。
・不特定多数の者が利用する建築物の1以上のエレベーターの乗降ロビーは、高低差がないものとし、その幅及び奥行きは、180cm以上とすることが望ましい。
- 新築の場合には、乗降ロビー付近には、下り階段・下り段差を設けない。
・乗降ロビー付近に、やむを得ず、下り階段又は下り段差を設ける場合には、車椅子使用者等の転落防止策を講じる。
③ 籠の広さ
-
主要な経路上のエレベーターの籠の奥行きは、135cm以上とする。
-
座位変換型の電動車椅子使用者等の利用に配慮し、主要な経路上のエレベーターの籠の奥行きは、150cm以上とすることが望ましい。
-
主要な経路上以外のエレベーターでも、籠の奥行きは、135cm以上とすることが望ましい。
-
床面積の合計が2,000㎡以上の不特定多数の者が利用する建築物では、主要な経路上のエレベーターの籠の幅は、140cm以上とし、籠は、車椅子の転回に支障がない構造とする。(収容人員11人乗り以上)
-
多数の者が利用し、又は床面積の合計が2,000㎡未満の不特定多数の者が利用する建築物でも、主要な経路上のエレベーターの籠の幅は、140cm以上かつ収容人員11人乗り以上とすることが望ましく、籠は、車椅子の転回に支障がない構造とすることが望ましい。
-
不特定多数の者が利用する建築物の1以上のエレベーターの籠の幅は、160cm以上とすることが望ましい。
籠・乗降ロビー内法寸法(移動等円滑化誘導基準)
JIS A4301に定められたエレベーターの籠の大きさ等(抜粋)
最大定員 | 籠の内法寸法 | 有効出入口 | |
---|---|---|---|
(人) | 間口(cm) | 奥行き(cm) | 奥行き(cm) |
9 | 105 | 152 | 80 |
11 | 140 | 135 | 80 |
13 | 160 | 135 | 90 |
15 | 160 | 150 | 90 |
17 | 180 | 150 | 100 |
200 | 135 | 110 | |
20 | 180 | 170 | 100 |
200 | 150 | 110 | |
24 | 200 | 175 | 110 |
215 | 160 |
※JISの表中の間口と奥行の寸法を入れ替えて製作することが可能
(奥行160cm以上とする場合、間口寸法も参照可)
- 病院、福祉施設、共同住宅等では利用特性に配慮した籠形状とする。
設計例
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④ 段及びすきま
- 籠の床と乗降ロビーの床の段は小さくし、かつ、すきまは、車椅子のキャスターが落ちないよう、3cm程度以下とする。
(3)戸の形式
- 聴覚障害者等の利用に配慮し、緊急時等において籠内外の連絡等が可能となるよう、エレベーターの出入口には、下端の高さが床上50㎝程度のガラス窓(防火区画との関係に注意が必要)を設けることが望ましい。
留意点:防火戸等の柱・枠
-
エレベーターの防火区画を乗降ロビーに設けた防火戸で行う場合、防火戸の枠や柱が視覚障害者の歩行の障害になるだけでなく、衝突の危険がある。
-
そのため、できる限り乗降ロビーでの防火区画を設けない区画設計とすることが望ましい。
-
エレベーターの防火区画を乗降ロビーに設けた防火戸で行う場合、防火戸や防火シャッターの柱や枠が避難を妨げないようにすることが望ましい。
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(4)乗降ロビーの部品・設備等
① 車椅子使用者対応の乗り場ボタン
-
主要な経路上のエレベーターの乗降ロビーには、車椅子使用者が利用しやすい位置に乗り場ボタン(制御装置)を設ける。
-
車椅子使用者対応の乗り場ボタンの設置高さは、床から100cm程度とする。
-
車椅子使用者対応の乗り場ボタンは、車椅子使用者が操作しやすく、当該ボタンを押すことにより、戸の開放時間が通常より長くなる機能を有するものとする。
-
車椅子使用者対応の乗り場ボタンの付近等、車椅子使用者等の見やすい位置に、国際シンボルマークを表示する。
② 乗り場ボタンへの点字表示等
- 主要な経路上のエレベーターの乗降ロビーに設ける乗り場ボタン(車椅子使用者が利用しやすい位置とその他の位置に乗り場ボタンを設ける場合にあっては、その他の位置に設けるもの)は、点字、文字等の浮き彫り、音による案内、その他これらに類するものにより、視覚障害者が円滑に操作することができる構造とする。(※2)
※2 以下の場合を除く。
-
エレベーター及び乗降ロビーを自動車車庫に設ける場合
-
乗り場ボタンへの点字表示は、立位で使用する乗り場ボタンに設ける。
-
乗り場ボタン等の操作ボタンへの点字表示は、ボタンの左側に設ける。
-
視覚障害者の利用に配慮し、乗り場ボタンは昇降方向が識別できる形状とする。
-
点字表示については、JIS T 0921を参照。
留意点:乗降ロビーの点字表示
-
掌が字に対して水平になるようにして点字を読むため、車椅子使用者対応の乗り場ボタンのように低い位置にある点字表示は読み難い。
-
そのため、乗り場ボタンへの点字表示は、立位で使用する乗り場ボタンに設ける。
③ 籠の昇降方向を伝えるための装置
-
主要な経路上のエレベーターの乗降ロビーには、到着する籠の昇降方向を表示する装置を設ける。
-
主要な経路上のエレベーターの乗降ロビーには、到着する籠の昇降方向を音声により知らせる装置を設ける。(※3)
※3 以下の場合を除く。
-
エレベーター及び乗降ロビーを自動車車庫に設ける場合
-
主要な経路上以外のエレベーターでも、乗降ロビーに、到着する籠の昇降方向を表示する装置を設けることが望ましい。
④ 視覚障害者誘導用ブロック等
-
視覚障害者が乗り場ボタンの位置を認知しやすいよう、乗り場ボタンの手前には、点状ブロック等を敷設する。
-
視覚障害者誘導用ブロック等については、2.14 H 視覚障害者誘導用ブロック等、音声等による誘導設備(2)を参照。
⑤ 屋根、庇
- 雨天時の利用に困難が生じないよう、屋外に面するエレベーターの出入口には、屋根又は庇を設ける。
留意点:車椅子による乗降等
- 屋外に面するエレベーターの出入口では、車椅子使用者は傘をさすことができないため、屋根、庇の設置が求められる。
(5)籠内の部品・設備等
① 手すり
-
両側面の壁及び正面壁に設ける。
-
取り付け高さは、床から75~85cm程度とすることが望ましい。
-
手すりは、握りやすい形状とする。
-
手すりについては、2.14 A 手すりを参照。
② 鏡
-
車椅子使用者が籠の中で転回しなくても、戸の開閉状況が確認できるよう、籠入口正面壁面の床上40㎝から150㎝程度の範囲に、出入口状況確認用の鏡(ステンレス製、又は安全ガラス等)を設けることが望ましい。
-
出入口が貫通型(スルー型)、直角2方向型及びトランク付型の籠の場合には、籠上部に凸面鏡等を設けることが望ましい。
-
鏡の形状と設置位置は、車椅子使用者がバックで出るとき、出入口まわりの人や床が見やすいものとする。
③ 乗降者検知装置
-
籠の出入口には光電式、静電式又は超音波式等で乗客を検出し、戸閉を制御する装置を設ける。
-
光電式の場合は光電ビームを2条以上、床上20cm及び60cm程度の高さに設けることが望ましい。
エレベーターの乗降ロビー、籠の設計例
○平面図
/images/2-6/image9.tif" style="width:5.80486in;height:2.40208in" /
○断面図
/images/2-6/image9.tif" style="width:5.80417in;height:2.66181in" /
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-
主要な経路上のエレベーターの籠内には、車椅子使用者が利用しやすい位置に操作盤(制御装置)を設ける。
-
籠内で転回しにくい車椅子使用者の操作を考慮し、車椅子使用者対応の主操作盤、副操作盤は、籠中央の左右の壁に設ける。また、極端に籠の奥や手前に設けない。
-
車椅子使用者の手の届く範囲を考慮し、車椅子使用者対応の主操作盤、副操作盤の設置高さは床から100㎝程度とすることが望ましい。
-
副操作盤の行き先ボタンは、ボタンを操作することにより、戸の開放時間が
-
通常より長くなる機能を有することが望ましい。(車椅子使用者用の主及び副操作盤の行き先ボタンは、戸の開放時間が通常より長くなる機能を標準的に有している。)
-
主操作盤には、インターホン設備を設けることが望ましい。
⑤ 操作盤への点字表示等
- 主要な経路上のエレベーターの籠内に設ける操作盤(車椅子使用者が利用しやすい位置とその他の位置に制御装置を設ける場合にあっては、その他の位置に設けるもの)は、点字、文字等の浮き彫り、音による案内、その他これらに類するものにより、視覚障害者が円滑に操作することができる構造とする。(※4)
※4 以下の場合を除く。
-
エレベーター及び乗降ロビーを自動車車庫に設ける場合
-
点字表示は、籠内の立位で使用する操作盤の各ボタン(階数、開、閉、非常呼び出し、インターホン)に設ける。
-
点字表示は、ボタンが縦配列の場合は左側に、横配列の場合は上側に行う。
-
点字表示については、JIS T 0921を参照。
-
タッチセンサー式のボタンは、視覚障害者には押したか否か認知が難しく、誤って押す可能性があるため、使用しないことが望ましい。
-
ボタンの文字は、周囲との色の明度、色相又は彩度の差が大きいこと等により弱視者(ロービジョン)の操作性に配慮したものであることが望ましい。
-
同一建築物内においては、操作盤の取付位置、配列、ボタンの形状、使い方等を統一することが望ましい。
⑥ 籠の昇降方向を伝えるための装置
-
主要な経路上のエレベーターの籠内に、籠が停止する予定の階及び籠の現在位置を表示する装置を設ける。
-
主要な経路上のエレベーターの籠内に、籠が到着する階並びに籠及び昇降路の出入口の戸の閉鎖を音声により知らせる装置を設ける。(※5)
-
主要な経路上のエレベーターの籠内には、到着する籠の昇降方向を音声により知らせる装置を設ける。(※5)
※5 以下の場合を除く。
-
エレベーター及び乗降ロビーを自動車車庫に設ける場合
-
主要な経路上以外のエレベーターでも、籠内に、籠が停止する予定の階及び籠の現在位置を表示する装置を設けることが望ましい。
留意点:出入口が2方向ある場合の音声による案内
- 出入口が2方向あるエレベーターの籠内には、扉の開く方向、階数等をわかりやすく案内する音声案内装置を設けることが望ましい。
<エレベーター操作盤の仕様の例>
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⑦ その他の表示装置等
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過負荷(定員超過)の際の過荷重ブザーによる報知のわかりにくい利用者もいるため、過負荷の視覚的表示及び自動放送装置による案内をすることが望ましい。
-
聴覚障害者等の利用に配慮し、籠出入口の枠、又は籠正面壁等の見やすい位置に、定員超過であることを示す過負荷表示灯を設けることが望ましい。
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聴覚障害者も含めた緊急時への対応に配慮すると、以下のような設備を設けることが望ましい。
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籠内に、緊急時等に情報提供や誘導案内等を行う表示装置等を設ける。
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故障が検知された場合は、故障したことが伝わるよう、自動的に籠内にその旨の表示を行うか、籠内に外部に故障を知らせるための非常ボタンを設ける。
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籠内に、緊急時に聴覚障害者が外部と連絡を取ることが可能な(緊急連絡を必要としている者が聴覚障害者であることが判別できる)ボタンを設置する。
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地震、火災、停電時管制運転を備えたエレベーターを設置する場合には、音声及び文字で管制運転により停止した旨を知らせる装置を設ける。
留意点:非常時のための設備
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籠内のインターホンボタンを押し、管理者又は保守会社が応答したときに、インターホンの応答表示が点灯するもの等を設けることが望ましい。
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設置が義務付けられている地震時等管制運転装置だけでなく、火災時管制運転装置を設けることが望ましい。
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管制運転が作動したときには、籠内の乗客に、電光表示等だけでなく、音声でも案内をすることが望ましい。
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非常呼び出しボタンは、触覚又は点字でわかるようにすることが求められる
(6)案内表示
-
エレベーターその他の昇降機の付近には、エレベーターその他の昇降機があることを表示する表示板(標識)を設ける。
-
表示板は、高齢者、障害者等の見やすい位置に設ける。
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表示板は、ピクトグラム等の表示すべき内容が容易に識別できるもの(当該内容がJIS Z 8210 案内用図記号に定められているときは、これに適合するもの)とする。
- 表示板等については、2.14 G 案内表示を参照。
(7)その他のエレベーターに関する標準
- 車椅子兼用エレベーターに関する標準(JEAS-C506A)、視覚障害者兼用エレベーターに関する標準(JEAS-515D)(ともに(社)日本エレベーター協会制定)によることが望ましい。
参考例:商業施設等における優先エレベーターの案内表示
- 不特定多数の者が多数利用する建築物(主に大
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置し、そのうち1以上のエレベーターに、車椅子使用者やベビーカー使用者等が 優先して利用できることを乗場や出入り口扉に案内表示し、より利用しやすい工夫を講じている。