客室の設計標準

2.9.1 客室の設計標準

(1)車椅子使用者用客室

① 設置数、配置

  • 客室総数が50以上の場合は、客室総数の1/100を乗じて得た数(1未満の端数が生じたときは、これを切り上げて得た数)以上の車椅子使用者用客室を設ける。

  • 客室総数が200以下の場合は、客室総数に1/50を乗じて得た数以上、客室総数が200を超える場合は、客室総数に1/100を乗じて得た数に2を加えた数以上の車椅子使用者用客室を設けることが望ましい。また、バリアフリー法第17条に基づく建築物特定施設とする場合は、これに適合させた客室数以上の車椅子使用者用客室を設ける。

  • 客室総数が50未満の場合は、1以上の車椅子使用者用客室を設けることが望ましい。

参考:バリアフリー機能を備えた客室の設置数に関する国際的な水準

(2010年版 アクセス可能なデザインのためのADA基準 米国司法省2010年9月)

  • バリアフリー機能を備えた客室の設置数は、下表に従って提供されなければならない。

  • 前述の車椅子使用者用客室の設置数を設けるとともに、上記の国際的な水準を参考にしつつ、個別のプロジェクトに応じて高齢者、障害者等の利用に配慮した客室(一般客室を含む)の設置数を設定することが望ましい。

留意点:車椅子使用者用客室の整備促進

  • 地方公共団体においては、バリアフリー法第14条第3項に基づく条例(バリアフリー条例)において、ホテル又は旅館の義務付け対象規模を政令の規模(床面積2,000㎡)未満に設定することや、車椅子使用者用客室の割合等、建築物特定施設の構造及び配置に関する基準を付加する、又は基準強化を図る等、「車椅子使用者用客室の整備促進」について、より積極的な取り組みがなされることが望ましい。

② 客室出入口の有効幅員、空間の確保等

  • 客室出入口の有効幅員は、80cm以上とする。

  • 車椅子使用者の戸の開閉のため、客室出入口の戸が内開き戸や引き戸の場合には、戸の取っ手側に、袖壁の幅45cm程度以上の接近スペースを設けることが望ましい。

  • 客室内における便所・浴室等の出入口付近の通路は、車椅子使用者が円滑に利用できるよう、十分な有効幅員を確保する。なお、便所・浴室等の出入口(有効幅員80㎝以上)に至る車椅子使用者の経路が直角路となる場合には、便所・浴室等の出入口付近における通路の有効幅員は、100cm以上とする。

  • 客室内には、車椅子使用者が360°回転できるよう、直径150㎝以上の円が内接できるスペース又は車椅子使用者が180°転回(方向転換)できるよう、140cm以上×140cm以上のスペースを、1以上設ける。(家具等の下部に車椅子のフットサポートに乗せた足が通過できるスペースが確保されていれば、その部分も有効スペースとする。)ベッドの移動等、客室のレイアウトの変更による対応でもよい。

  • 車椅子使用者がベッドに移乗できるよう、ベッド側面のスペースの有効幅員は、80cm以上とする。(ベッド、テーブルや椅子等の移動によって確保されるスペースも、有効幅員とするが、この場合は施設管理者側の移動作業が増大することに留意する必要がある。)

  • 客室の床には、原則として段差を設けない。客室の一部に和室や畳の小上がりスペース等を設ける場合、車椅子使用者が容易に移乗できるよう、畳上面等(段差)を40~45㎝程度(車椅子の座面の高さと同程度)とすることが望ましい。

  • 壁面からの突出物を極力避けるとともに、やむを得ず突出した部分や衝突する可能性のある壁・柱・家具の角等がある場合には面取りをする、保護材を設ける等、危険防止に配慮することが望ましい。

  • その他については、2.8.1 利用居室の出入口の設計標準を参照。

<内開き戸の例> <引き戸の例>

<設計例>

③ 客室出入口の戸の形式

  • 戸は、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないものとする。

  • 戸の開閉動作は、開き戸より引き戸の方が開閉しやすい。

  • 取っ手の中心高さは、床から90㎝程度とする。

  • 室名表示、避難情報及び避難経路の表示等は、床から140cm程度の高さ(車椅子使用者の見やすさに配慮した高さ)に設ける。

  • アイスコープは、一般客室と同じ高さの他に、床から100~120cm程度(車椅子使用者の目線の高さ)程度の高さに設けることが望ましい。又は、戸の付近にカメラ付きインターホンを設けることが望ましい。

  • 非接触型カード錠のカードリーダは、床から100~120cm程度の高さに設けることが望ましい。

  • 錠(電気錠を含む)は、施錠の操作がしやすいものとし、操作がしやすい高さに設けるとともに、緊急の場合には廊下側からも解錠できるものとする。

ア.開き戸

  • 取っ手は、大きく操作性の良いレバーハンドル式、又はプッシュプルハンドル式等とする。

  • ドアクローザーは、閉めはじめはゆっくり閉まる等、閉鎖作動時間が十分に確保され、かつ軽い力で操作できるものとする。(ディレードアクション機能)

  • 戸が90度以上開くようドアクローザーの収まるスペースを確保し、戸当たりの位置を工夫するとともに、取っ手が壁にあたらないよう、戸の吊元のスペースを確保することが望ましい。

<参考>ドアクローザー(車椅子の通行に安全で便利な機能:ディレードアクション付の例)

留意点:客室出入口のU字ロックやチェーンロックの解除等

  • 非常時には従業員等が客室に駆け付けて高齢者、障害者等を救助するため、施設管理者は廊下側からU字ロックやチェーンロックの解除する方法等の対策を備えておく必要がある。

イ.手動式引き戸

  • 手動式引き戸は、自閉式上吊り引き戸(ストッパー若しくは一時停止装置又は自動閉鎖時間の調整機能を持ち、閉まり際で減速するもの)で、容易に開閉できるものとすることが望ましい。

  • 取っ手は、握りやすい形状(棒状のもの等)とする。

留意点:手動式引き戸の採用にあたって

  • 客室出入口に引き戸を採用する場合には、戸の遮音性能(開き戸との相違)のほか、引き残し・戸袋の設置スペースや電気錠の設置スペースについて確認することが必要である。

ウ.その他

客室出入口の開き戸(廊下側)の例

客室出入口の開き戸(客室側)の例

設計例

④ 部品・設備等

ア.ベッド

  • ベッド高さは、マットレス上面で45~50㎝程度とする。

  • 室内の回転スペース又は転回(方向転換)スペース及びベッドへの移乗スペース(有効幅員80cm以上)を確保するために客室内のレイアウト変更が可能となるよう、ベッドを床に固定することは避ける。

  • ヘッドボード高さは、マットレス上面より30㎝以上することが望ましく、形状はベッド上で寄り掛かりやすいものとすることが望ましい。

イ.ベッドサイドキャビネット

  • 客室内のレイアウト変更が可能となるよう、ベッドサイドキャビネットを床に固定することは避ける。

  • 高さは、マットレス上面より10㎝程度高くすることが望ましい。

  • ベッド上から手の届く位置に、緊急通報ボタンを設けることが望ましい。

<ベッド廻りの例> <設計例>

ウ.照明

  • ベッド上で室内の照明を点灯・消灯できるものとする。

  • リモコンやタブレット等で操作できるものとすることが望ましい。

  • 室内の照明は、間接照明とし、光源が利用者に直接見えないように配慮する。

エ.電話機

  • 室内の電話機は、ベッドから手が届く位置に設ける。

オ.インターホン(室内機)、戸の施錠・解錠装置(カード式含む)、スイッチ、コンセント類

  • インターホン(室内機)、戸の施錠・解錠装置(カード式含む)、スイッチ、コンセント類は、車椅子使用者の利用に適した位置、高さに設ける。

  • 電動車椅子のバッテリー充電のため、客室内の利用しやすい位置に床から40cm程度の高さのコンセントを設ける。

  • スイッチ等は、大型で操作が容易なボタン形式のものとすることが望ましい。

  • スイッチ等及び壁の仕上げ材料等は、スイッチ等と壁の色の明度、色相又は彩度の差を確保したものとすることが望ましい。

  • コンセント、スイッチ類については2.14 E コンセント・スイッチ類を参照。

<コンセント、スイッチの高さの例>

<設計例>

カ.収納等

  • 収納は、車椅子使用者の利用に適した位置とする。

  • 棚の高さは、下端:床から30~40㎝程度、上端:床から100~120㎝程度とする。

  • ハンガーパイプやフックの高さは、床から100~120cm程度とするか、高さの調節ができるものとする。

  • 棚やクローゼット等を設ける場合、奥行きは最大60㎝程度とする。

  • 収納の形状は、車椅子使用者が容易に接近できるものとする。

  • 戸を設ける場合、取っ手は、高齢者、障害者等が使い易い形状のものとする。

<収納の例>

棚 ハンガーパイプ フック(壁掛け)

<設計例>

キ.カウンター、ライティングデスク等

  • 室内にカウンター・ライティングデスクを設ける場合、床からの上端高さは70~75cm程度、下端高さは65~70cm程度とする。

  • 室内にカウンター・ライティングデスクを設ける場合、奥行きは45cm以上とすることが望ましい。

<カウンターの例> <設計例>

⑤ 仕上げ等

  • 客室の床は、滑りにくい材料で仕上げる。

  • 車椅子の操作が困難になるような毛足の長い絨毯を、床の全面に使用することは避ける。

⑥ バルコニー(避難用バルコニーを含む)、テラス等

  • 車椅子使用者用客室にバルコニー(避難用バルコニーを含む)、テラス等を設けた場合には(以下共通)、バルコニー、テラス等への主要な出入口の有効幅員は、80cm以上とすることが望ましい。

  • バルコニー、テラス等への主要な出入口の戸は、引き戸や引き違い戸等、車椅子使用者等が容易に開閉して通過できる構造とすることが望ましい。また、その前後に高低差がないものとすることが望ましい。

⑦ 便所、便房

  • 客室内の便所には、車椅子使用者が円滑に利用できる便房(以下「車椅子使用者用便房」という。)を設ける。(※1)

※1 以下の場合は代替可能。

  • 車椅子使用者用客室が設けられている階に、車椅子使用者用便房が設けられた共用の便所が、1以上(男子用及び女子用の区別があるときは、それぞれ1以上)設けられている場合

  • 下記のほか、車椅子使用者用便房については、2.7.2 個別機能を備えた便房の設計標準 (1)及び(2)を参照。

ア.出入口の有効幅員、空間の確保等

  • 車椅子使用者用便房及び当該便房が設けられている便所の出入口の有効幅員は、80cm以上とする。

  • 車椅子使用者用便房には、車椅子使用者が円滑に利用することができるよう、十分な空間を確保する。

  • 車椅子使用者用便房の各設備を使用でき、車椅子使用者が360°回転できるよう、直径150㎝以上の円が内接できるスペース又は車椅子使用者が180°転回(方向転換)できるよう、140cm以上×140cm以上のスペースを設ける。全体計画や客室タイプ等により、やむを得ず、直径150㎝以上の円が内接できるスペース又は140cm以上×140cm以上のスペースを設けることができない場合には、車椅子使用者が腰掛け便座等に移乗しやすいように、幅80cm以上×奥行き120cm以上のスペースを設ける。

  • 床には段差を設けない。

イ.戸の形式

  • 車椅子使用者用便房及び当該便房が設けられている便所の戸は、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないものとする。

  • 開き戸の場合には、戸が90度以上開くようドアクローザーの収まるスペースを確保し、戸当たりの位置を工夫するとともに、取っ手が壁にあたらないよう、戸の吊元のスペースを確保することが望ましい。

ウ.部品・設備等

  • 車椅子使用者用便房には、腰掛便座、手すり等を適切に配置する。

  • 腰掛便座の横壁面に紙巻器、便器洗浄ボタン、呼出ボタンを設ける場合は、JIS S 0026に基づく配置とする。

留意点:車椅子使用者用便房の腰掛便座、手すり等の適切な配置例

例えば、以下のような具体的な対応が考えられる。

  • 車椅子から腰掛便座への移乗を容易にするため、腰掛便座の両側に手すりを設けることが望ましい。

  • 両側に手すりを設ける場合には、介助等を考慮し片側の手すりは可動式手すりとする。

  • 腰掛便座や手すりの配置・位置状況について、宿泊施設の情報提供の中で紹介することで、高齢者、障害者等の身体の状態等に応じて利用できるものか、宿泊施設及び客室を選択しやすくなることが望ましい。

<手すり等の配置の例(姿図)>

<手すりやボタンの配置の例(平面図)>

<設計例>

⑧ 浴室又はシャワー室

  • 客室内には、車椅子使用者が円滑に利用できる浴室又はシャワー室(以下「車椅子使用者用浴室等」という。)を設ける。(※2)

※2 以下の場合は代替可能。

  • 車椅子使用者用客室が設けられている施設内に、共用の車椅子使用者用浴室等が1以上(男子用及び女子用の区別があるときは、それぞれ1以上)設けられている場合

  • 1以上の共用の車椅子使用者用浴室等(個室浴室、貸し切り浴室を含む)は、異性による介助に配慮し、男女が共用できる位置に設けることが望ましい。

  • 共用の車椅子使用者用浴室等については、2.10.1 浴室・シャワー室の設計標準を参照。

留意点:車椅子使用者用浴室、車椅子使用者用シャワー室のバリエーション

  • 車椅子使用者用浴室には、洗面所・便房と一体として設けるタイプや、洗面所・便房とは別に独立して浴室(浴槽+洗い場)を設けるタイプ等がある。また車椅子使用者用シャワー室には、洗面所・便房と一体として設けるタイプや、洗面所・便房とは別に独立してシャワー室を設けるタイプ等がある。

留意点:共用の車椅子使用者用浴室までの経路

  • 車椅子使用者用客室から共用の車椅子使用者用浴室等までの経路のうち1以上は、高齢者、障害者等が円滑に利用できる経路とする。

ア.浴室等の出入口の有効幅員、空間の確保等

  • 出入口の有効幅員は、80cm以上とする。

  • 浴室又はシャワー室には、車椅子使用者が円滑に利用することができるよう、十分な空間を確保する。

  • 浴室等の各設備を使用でき、車椅子使用者が360°回転できるよう、直径150㎝以上の円が内接できるスペース又は車椅子使用者が180°転回(方向転換)できるよう、140cm以上×140cm以上のスペースを設ける。全体計画や客室タイプ等により、やむを得ず、直径150㎝以上の円が内接できるスペース又は140cm以上×140cm以上のスペースを設けることができない場合には、車椅子使用者が浴槽や入浴用椅子等に移乗しやすいように、幅80cm以上×奥行き120cm以上のスペースを設ける。

  • 床には段差を設けない。

イ.戸の形式

  • 浴室等の戸は、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつ、その前後に高低差がないものとする。

  • 開き戸の場合には、戸が90度以上開くようドアクローザーの収まるスペースを確保し、戸当たりの位置を工夫するとともに、取っ手が壁にあたらないよう、戸の吊元のスペースを確保することが望ましい。

ウ.部品・設備等

  • 車椅子使用者用浴室等には浴槽、シャワー、手すり等を適切に配置する。
a.浴槽
  • 浴槽深さは50cm程度、エプロン高さは45㎝程度(車椅子の座面の高さ程度)とする。

  • 車椅子から移乗しやすいよう、浴槽の脇に移乗台を設ける。移乗台の高さは、浴槽のエプロン高さと同程度とする。移乗台は取り外し可能なものでもよい。

  • 浴槽は濡れても滑りにくく、体を傷つけにくい材料で仕上げる。

b.シャワー
  • 原則としてハンドシャワーとする。

  • シャワー室・洗い場付き浴室の場合には、シャワーホースの長さは150cm以上とすることが望ましい。

  • 入浴用椅子、シャワー用車椅子、壁掛け式折りたたみ椅子のいずれかを備える。

  • 入浴用椅子等に座った状態で手が届くよう、シャワーヘッドは垂直に取り付けられたバーに沿ってスライドし、高さを調整できるものとすることが望ましい。

  • 上下2箇所にシャワーヘッド掛けを設ける場合には、低い位置のシャワーヘッドかけは、入浴用椅子等に座った状態で手が届く高さに設ける。

c.手すり
  • 浴槽を設ける場合には、浴槽出入り、浴槽内での立ち座り・姿勢保持等のための手すりを設ける。

  • 洗い場やシャワー室を設ける場合には、入浴用椅子等に座った状態で手が届く位置に、立ち座り・姿勢保持等のための手すりを設ける。

d.浴槽及びシャワーの水栓金具
  • 洗い場の水栓金具の取り付け高さは、入浴用椅子等から手が届く位置とし、浴槽の水栓金具の取り付け高さは浴槽に座った状態で操作可能な位置とする。

  • 水栓金具は、レバー式等の操作のしやすいものとする。

  • サーモスタット(自動温度調節器)付き混合水栓等、湯水の混合操作が容易なものとする。

  • サーモスタット(自動温度調節器)には、適温の箇所に認知しやすい印等を付ける。

留意点:水栓

  • 湯水の溢れ出しを防止するため、浴槽の水栓は定量止水機能のついたものとすることが望ましい。
e.緊急通報ボタン等
  • 緊急通報ボタン又は非常用を兼ねた浴室内電話機を車椅子使用者等が操作しやすい高さ、位置に設ける。

  • 緊急通報ボタンを押したことが、音声による案内のほか、フラッシュライト等の点灯等により客室内外で視認できることが望ましい。

エ.仕上げ等

  • 床は濡れても滑りにくく、転倒時や床に座ったままで移動する場合にも体を傷つけにくい材料で仕上げる。

  • 車椅子での移動の妨げにならないよう、床は水はけの良い材料で仕上げ、可能な限り排水勾配を緩やかにする。

  • 一般客室の浴室等と同様の快適性を確保できるよう、内装仕上げ材・部品・設備機器の選定・工夫、色彩・照明計画等に配慮することが望ましい。

<浴室の設計例>

<シャワーの設計例>

<シャワー室の設計例>