設計の考え方

設計の考え方

(1)高齢者、障害者等が円滑に利用できる便所・便房の設置

  • 重度の障害者を含めて幅広い高齢者、障害者等の社会参加や外出等の機会をさらに促進するため、より多くの様々な建築物に高齢者・障害者等が円滑に利用できる便所・便房を整備することが求められている。

  • 特に近年は、日常生活及び社会生活において利用される用途の建築物(診療所・物販店舗・飲食店舗・サービス店舗等)には、規模にかかわらず、高齢者、障害者等が円滑に利用できる便所・便房を設けることが求められている。

  • このようなニーズに対応するためには、道等に面する独立(単独)店舗に高齢者、障害者等が円滑に利用できる便所・便房を設けるほか、複数の店舗や事務所用途等が入居するテナントビルに、テナントの入れ替え等に影響されずに利用者の利便性を確保するよう、テナント数や規模に関わらず、高齢者、障害者等が円滑に利用できる便所・便房を共用部分に設けることが重要となる。

  • 高齢者、障害者等が円滑に利用できる便所・洗面所等のバリアフリー整備は、建築物の所有者・施設管理者及び店舗等の事業者にとって、今後の利用者拡大につながる重要な取り組みである。

(2)多様な利用者の円滑な利用に向けた、便房の設備・機能の分散配置

  • 便所・便房の計画・設計においては、施設用途や規模の他、多様な利用者を十分に把握・想定し、利用者にとって必要な設備、便房数、面積等の確保を行うことが重要である。

  • 計画・設計にあたっては、まず、バリアフリー法に義務付けられた「車椅子使用者用便房」と「オストメイト[^1]用設備を有する便房」の設置方法、便房数を検討し、さらに施設を利用する高齢者、障害者、乳幼児連れ利用者等の利用者特性に配慮した設備や便房の設置を検討する必要がある。

  • 「車椅子使用者用便房」の計画・設計においては近年、介助を要する肢体不自由者(児)等の社会参加や外出等の機会を促進するため、ベッド上での着脱衣やおむつ交換・排泄(自己導尿等)のための大型ベッドの設置や、介助者の動作等の実態に即した広さのある便所・便房が求められていることに留意する必要がある。

  • 一方で、多様なニーズに応えるために「車椅子使用者用便房」にオストメイト用設備や乳幼児用設備を付加した便房(従来の「多機能便房」)について、近年、利用者が集中し、便房内に広い空間を必要とする車椅子使用者が円滑に利用することが困難になっているとの声が多く寄せられている。

  • また近年では、視覚・知的・発達障害者等への異性による介助、高齢者同士の異性による介助・同伴利用、性的マイノリティの利用により、男女共用の便房の設置に対するニーズも高まっており、介助者等の実態に即した便所・便房の設置が求められている。

  • このような実態を踏まえると、多様な利用者の円滑な利用を促進するためには、従来の多機能便房内にあった各種設備・機能を、便所全体に適切に分散して配置することが重要となる。

  • このため、便所・便房の整備においては施設用途や利用者のニーズを踏まえ、車椅子使用者用便房(大型ベッド付き)を男女が共用できる位置に1以上設けることに加え、オストメイト用設備を有する便房、乳幼児用設備を有する便房等の個別のニーズに対応した便房を男女それぞれの便所又は男女が共用できる位置に分散配置する工夫等、「個別機能を備えた便房」を適切に設けて機能分散することを基本的な考え方とする。

  • 「個別機能を備えた便房」等の概要は、以下の通りである。 個別機能を備えた便房

車椅子使用者用便房

  • 車椅子使用者が円滑に使用できる広さを備えた便房(大型ベッド付きを含む)

オストメイト用設備を有する便房

  • 腰掛便座のある広めの便房に汚物流しなどのオストメイト用水洗器具を設けたもの

乳幼児用設備を有する便房

  • ベビーカーとともに入れる広さを備えた便房で、乳幼児椅子、乳幼児用おむつ交換台、着替え台等を備えたもの
  • 乳幼児連れ利用者に配慮した設備を有する便房を設けない場合、便所内(男子用及び女子用の区別があるときはそれぞれの便所)に乳児用おむつ交換台を設ける方法もある

個別機能を組み合わせた便房

  • 利用想定等を十分に考慮し、車椅子使用者用便房(大型ベッド付きを含む)に、オストメイト用設備又は乳幼児用設備を付加した便房

  • 高齢者、障害者等が利用する個別機能を備えた便房等の適正利用を推進するために、各種便房を総称して「高齢者障害者等用便房(バリアフリートイレ)」と位置付ける。

  • なお、「共生社会におけるトイレの環境整備に関する調査研究報告書 令和3年3月/国土交通省総合政策局」では、車椅子使用者用便房等に集約されやすい設備・機能のうち、乳幼児連れ用設備やオストメイト用設備の機能分散化を推進すること等の具体的な機能分散の考え方等について示されており、これに基づき、本建築設計標準において、高齢者障害者等用便房(「バリアフリートイレ」と総称する)の適正利用のために、各種便房の設備・機能の分散配置等に関する具体的な設計の考え方について示している。

各種便房の機能分散化や個別機能を備えた便房の適正利用の推進

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高齢者障害者等用便房(「バリアフリートイレ」と総称する)

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⚠️

留意点:複数テナントや商店街等が共同利用できる車椅子使用者用便房やオストメイト用設備を有する便房の効率的な整備

  • 複数テナントが入居する建築物(複合店舗又は路面店舗)の場合には、テナント(専有部)ごとに車椅子使用者用便房を設けるのではなく、複数のテナント(各店舗)が共同利用できる位置に車椅子使用者用便房等を設けることが、施設全体の効率性確保につながる。

  • 同様に、小規模店舗が密集する商店街においては、複数の店舗が共同利用できる位置に車椅子使用者用便房等を設けることが、商店街全体の効率性確保につながる。

  • このため、複合用途の建築物や商店街等においては、共同利用できる位置に車椅子使用者用便房を1以上設けることが望ましいが、テナントビルや商店街等で共同利用する車椅子使用者用便房等は、営業時間に関わらず、それぞれのテナント(店舗)が利用可能とする必要がある。